開かれたそれの隙間に咲いたのは、大きな光の華だ。



「しまったな。もう少し早くに帰ってくる予定だったんだが…」
総司の隣に立った土方は、窓の向こうを眺めながら少し悔しそうに呟いた。










呆然としたまま、総司は数歩下がって改めてその壁を見た。
どうやら、足元から天井まで至る窓はガラスが破目殺しになっているらしく、
暗闇の中では継ぎ目が殆ど見えず、まるで夜空を切り取ったかの様だった。

総司の視界に映るのは、正面の暗闇と足元に散らばるネオンの明かり、
その闇に一瞬だけ咲く色とりどりの華、そしてそれにシルエットとなって浮かびあがる、
大切な人の姿のみ。



「…はな、び?」
驚きの所為で呂律が上手く回らない総司は、緩慢な動作で土方を見上げた。
土方はそんな彼の隣に回りこみ、後ろから腰の辺りを抱いてやりながら頷いた。

「ああ。来ないと許さないと言った訳が、分かったか?」

(脅しみたいな言葉まで言っていたのは、僕にこれを見せる為だったんだ…)
そうと理解した瞬間、ならば何故素直にそう言えないのだろうと熱くなりかけるが、
そんな事も惚れた弱みで、どうも愛しく思えてしまう。



「…ずっと、お前に見せたいと思ってたんだ」
「え…?でも、この花火大会は年に1度ですよ、ね?」

漸く冷静さを取り戻した総司の台詞に、土方はふいと視線を逸らして花火を見つめた。
頬を掻く仕草は、照れ隠しに違いない。

「先生…ありがと」
土方に抱き付いて胸元に顔を埋めた総司は、もじもじと呟いた。
思わずしてしまった大胆な行為の恥ずかしさでまともに顔も見れないし、
土方からの想いが嬉しくて口元が緩んでしまって、はっきりと発音することもできない。
そんな彼の心境を知ってのことだろう、土方も無理に視線を合わせようとはしなかった。

「ここから見るのも、なかなか綺麗だろ?」
「こんな特等席、僕、初めてです…」
「花火大会には連れてってやれねェから…今はまだ、これで我慢してくれ」
(総司が高校を卒業して、教師と生徒という立場を離れた時には…叶えてやろう)

土方が何を考えているのか気付いた総司は、涙を滲ませながら彼を見上げた。

「ね、先生…キスして?」



多少の動揺は見られたものの、土方はすぐにその小さな顎に手をかけて
総司と視線を合わせると、意地悪く笑んでみせた。

「なら、名前を呼んでみろ」
「なまえ…?」
うっとりと瞳を潤ませた総司は、真意を解せずにたどたどしく呟く。

「ああ。ここにいるのは、教師じゃない…そうだろ?」
「え、と…土方…さん?」

「そうだ。ご褒美をやろう」
そう言って微笑むと、土方は優しく触れるだけのキスをした。
触れるとすぐに離れてしまった感触を求めて、総司は少し膨れて背伸びをする。

「もっと…」
「呼べって言っただろ?」
「土方、さん……って、しっくり来ないんですけど…」
「知るか。ちゃんと呼べるまで、その先はお預けだな」

俯いた総司は耳まで真っ赤に染めて、からかう様な口調の土方に腕を突っぱねた。
―本当は、彼が至極真剣な眼差しをしていた事に気付いていたのだが。

「本当にありがとうございます…意地悪な、土方さん」
「…可愛くねェな」
「なん――んッ!!」
反論しようと開かれる口を狙っていた土方は、瞬間、総司に喰い付く。

重なり合った2人の陰は、何度も何度も弾ける光に浮かび上がっていた。















夢の中で思い出した。
いつだったか、夜の浜辺を2人で歩いた時のこと。


楽しそうに花火を楽しむ人達がいて、それをぼうっと見つめていた僕に
「ちょっと待ってろ」と言った先生は、花火セットを買ってきてくれたんだ。

少し離れた浜辺で、2人でした花火は楽しかったけれど、
本当は、花火大会を一緒に見に行きたいと思ってた。
でも、そんな事は出来ないって分かってたから、諦めていた。
言葉になんて、一度もしなかったのに…



先生はいつだって、僕が欲しいものをくれるんだ。
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管理人はどちらかと言うと花火大会に行くよりも家から見てたり、手持ち花火をする方が好きなので、こんな感じに。
最後の独白は、おねむな総司を土方さんが車で送ってる最中のものです。まだ手は付いてません、たぶん…笑(2006.9.29upload)