2人の進路、創造中



「総司!今日は生徒会あんのか?」

教科書やルーズリーフを綺麗に揃え、辞書と併せて鞄に入れたところで
背後から声を掛けられた青年―と言うより、少年の様な容貌だが―は、笑顔で振り返った。

「無いよ。どうかした?」
「俺ら、先週新しく出来たって店に寄ってくけど、行かねぇ?」
「んー…ごめん、今日はちょっと」
少し残念そうに笑ってみせる青年の机上を見た友人は、今日もか、と気の毒そうな表情をする。
帰りの仕度の済んだ筈の彼の机上には、ある教科の教科書とノートが置かれたままだ。

また今度誘って、と言いながら手を上げた青年は、友人たちを見送ると正面に向き直った。
その視界にテキストを捉えると、くすっと軽く笑んだ。
(気の毒だと思われてるって知ったら、どんな顔するかな…)







青年の名は、沖田総司。
幼い頃に両親を不慮の事故で失った彼は、年の離れた姉によって育てられている。
姉は総司に不自由なく生活させる為に、早朝・深夜はコンビニでアルバイトをし、
日中はOLとして働くというハードな日々を送っている。
既に将来を誓い合った相手もいるのだが、彼を養い終えるまでは結婚しないと決めており、
未だに総司と2人で狭いアパートでの生活を続けているのだった。

そんな無理をさせてまで、自分が高校へと通う必要は無い…
そう言って初めて姉に頬を叩かれたのは、もう2年程前の事だったか。
結局、姉の言葉に甘えてトップの公立高校に入学し、
この春からは周囲からの推薦を受けて、生徒会役員を務めている。



姉の期待に応える為、学年上位の成績をキープしようと努力を続けていたのだが、
とある科目の成績が一気に下降していったのは、半年余り前の事。
授業で抜き打ちのミニテストがあったのだが、強い視線を感じて顔を上げると、
教壇から睨むような視線を送られていた。総司と視線が合っても、逸らす素振りも見せなかった。

その事があって以来、総司はその科目に限っては授業中に黒板を見ることが出来なくなり、
自然、成績は一気に下降し、それを心配した担任が担当教員との一対一の補講を設定したのだ。
その頃から少しずつ増えていった補講は、いつの間にか日課にすり替わっていた。
今日も勿論、例外ではない。



総司は鞄とテキストを抱えると、クラスメイトに別れを告げながら教室を出た。
足取り軽い目的地は、いつもの準備室。
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学園パロです。2〜3話になります!進路は選ぶものですが、創るものだとも思うのです。(2006.5.20up)